Interview

失敗していないということは、何もやっていないことと同じ 〜AIに挑むテクノロジーカンパニー〜

イノベーションを起こすための組織文化とは、またセブン銀行が取り組んでいる挑戦とは。セブン銀行で新規事業をリードしている、セブン・ラボにお話を伺った。

現在、多くの企業がAI(人工知能)の活用に向けて様々な取り組みを行っている。しかしながら思うようにAIの活用が進んでいないという企業が多い。AI活用の鍵は、実は企業の組織文化の変革に踏み込めるかどうかが重要だ。企業の組織文化を変えることは容易なことではないが、自己革新の精神が社風にしっかりと受け継がれ、先進的なテクノロジーに次々と挑んでいる企業がある。それがセブン銀行だ。イノベーションを起こすための組織文化とは、またセブン銀行が取り組んでいる挑戦とは。セブン銀行で新規事業をリードしている、セブン・ラボにお話を伺った。(2018年7月取材)


―(編集部)まずはセブン銀行の事業内容について教えて頂けますでしょうか。

西井氏)ご存知の通り事業としては銀行業ですが、一般的な銀行と異なり、ビジネスの中心はセブン‐イレブン等のセブン&アイグループの店舗に来店されるお客さまとの接点を活かしたATMプラットフォーム事業となっています。一方で、私達のセブン・ラボは新しい事業を生み出すことがミッションです。ゼロイチで新しいサービスを作ったり、自社のアセットと社外のテクノロジーを結びつけてオープン・イノベーションに取り組んだり、社内の業務効率化に取り組んだりしています。

オープン・イノベーションという切り口で言いますと、例えば給与を1ヶ月に1度の振込で受け取るのではなく、当日働いた分の給与をその日のうちにATMで受け取ることができるサービスを複数のスタートアップ企業と協業して展開しています。当社ではAPI開発にも注力しており、スタートアップ企業との協業にあたり専用のAPIを開発して連携しています。その他にも、おつりで少額の投資が可能なスタートアップと出資も含めた業務提携も行っています。

セブン・ラボ リーダーの西井健二朗氏(左)および専務執行役員 松橋正明氏(右)

―金融業は厳しい規制のもとに成り立っており、その中で新規事業を行うことの難しさもあるかと思います。それでもセブン銀行さんは積極的に新規事業やオープン・イノベーションに取り組めていらっしゃいますが、その要因はなんでしょうか?

松橋氏)まず私達セブン・ラボのマインドセットとして”銀行である”、というところからスタートしていません。お客さまの課題や利便性向上のために、必要なサービスや機能を開発する形を取っているのが特徴です。そのために、セブン&アイグループのシナジーを活かしてサービスや機能開発を促進しています。ですので、銀行はこうあるべきという固定概念があまりありません。発想の起点を従来の銀行サービスにしない、というところが最大の特徴かと思います。

―(編集部)そういう意味でも、貴社が取り組んでいるデザイン思考によるビジネス創出は効果的であると思いました。ですがそうは言っても容易ではないはずです。デザイン思考によるビジネス創出のアプローチで感じている難しさなど教えてください。

松橋氏)当然ながら、創出されたサービスアイデアの全てがすぐにビジネスになるわけではありません。社会状況や環境変化を待たなければいけなかったり、課題は見つかるけれども現在のテクノロジーでは解決できないものがあったりします。そういった外部環境にタイミングを合わせるということが難しいと感じています。

―(編集部)新規事業を行うにあたって、鍵となるのはテクノロジーになるかと思います。一方で、日本では金融とテクノロジーの人材の融合はまだまだ課題があると思うのですが、どうテクノロジー人材の育成に取り組まれてますでしょうか。

松橋氏)私達は銀行ではなくて、”テクノロジーカンパニー”と思っています。今でこそ当たり前の技術になりましたが、17年前の創業当時よりインターネットテクノロジーをATMに適用させてきました。既存の常識にとらわれることなく、ITを事業にフル活用する企業と思っております。

セブン銀行の経営理念には、「社員一人一人が、技術革新の成果をスピーディーに取り入れ、自己改革に取り組んでいきます。」とあり、新しいことを取り入れているか、常に自問自答しながら技術革新の文化を作っています。

西井氏)アプリに関しての開発スタンスも変わってきました。今まではユーザー部署が中心になってシステム部と設計し、外部に発注していました。しかしながら、それでは到底マーケットのスピードには合わず、自分たちで作れるようにならないといけないと感じていて、そういった人材を育てています。
エンジニアがサービスを考えていく時代に来ていると思います。開発者が経営者の右腕になる、そういった時代がもう来ていますね。

松橋氏)自身がエンジニアチームを率いていたときに、「我々が作っているのはシステムではなく、サービスである」といってメンバーをモチベートしていました。当社の特徴としては、エンジニア部隊がお客さまとの接点から、インフラに至るまで、垂直型にサービスをデザインするようにしています。必ずしも、すべてのサービスに当てはまるわけではありませんが、エンジニアが客観的にデザインするようにしています。

―(編集部)貴社のAIに関する取り組みについて教えて頂けますでしょうか。

 

松橋氏)様々なテクノロジーの活用に取り組んでいますが、私たちはなるべくテクノロジー起点で考えず、課題や実現したいことから発想をスタートさせています。ですが、AIだけは”画期的なテクノロジー”だと強く感じています。そこで、AIはテクノロジーベースで考えてみようということになりました。大きな課題としては、今現在所有しているデータは”機械学習やAIのためのデータになっていない”ということです。これをAIが活用できるように最適化したいと考えています。一般的には、いまあるデータで検証して、結果が出ずに終わってしまうということも多いかと思います。私達はAIのポテンシャルを信じ、まずは最適化されたデータに再編するということを中期的なゴールに設定しています。

現在重点的に検討していることとしては、現金マネジメントや、保守最適化、金融犯罪対策、チャットボットなどがあります。

過去の利用実績のデータを活用しながら、現金の需要予測が立てられないかということを検討しています。またATMは通常1年に1回の定期点検が当たり前になっていますが、これも慣例に則っているだけなんです。私達はAIを活用すれば定期的な保守点検は不要で、予兆が現れた際に保守点検を行うことで効率化できるのではと考えています。いま、数百台のATMに対して、定期点検をしない運用を試行しています。

現在、3-4年かけて自社でテクノロジーを使いこなせるようにデータ整備を行っています。運用ノウハウの可視化や、ログなども使って検証しています。これはセブン・ラボ単独ではできないので、様々な部門を横断したチームで取り組んでいます。また、電卓のように機械学習やAIを誰でも使いこなせるように、グルーヴノーツのMAGELLAN BLOCKSなどのツールも活用しています。

―(編集部)AIだけは画期的なテクノロジーだとお考えになる理由はどこからくるのでしょう?

松橋氏)説明が難しいのですが、一言で言えば、“勘”ですね。私は機械工学出身なのですが、通常のテクノロジーは“制御”するという感覚です。しかしながら、AIはそういった概念では計ることができないテクノロジーだと感じています。ゴールを与えると何かしらのアウトプットが出てくるところは全く異質なテクノロジーだと考えています。特に、ディープ・ラーニングは今後もっと活用できると思っており、例えば金融犯罪対策などにも使えるのではと考えています。AIへのアプローチはやはり制御するのではなく、人間が肌感で感じているものを言語化して、そのデータを学習要素に活かすということでアプローチだと思っています。

―(編集部)新規事業部はとかく既存部署との摩擦が生じがちですがどのように対応したり、振る舞ったりしているのでしょうか?

 

西井氏)こういった新規事業部門にありがちな問題に対しては、私達は比較的恵まれています。経営層に「失敗してない事自体がおかしい。最近、何を失敗したのか?・・」と聞かれるぐらいです。失敗していない、ということは何もやってないことと同義として捉えています。

松橋氏)セブン・ラボを創った際も、「一番最初に失敗するつもりで取り組むように」と言われました。こういった風土もあり、大企業の新規事業部門にありがちな問題はたくさん乗り越えてきていると思います。


編集後記

取材時に強烈に印象に残っている言葉がある。「サービス開発はFintechにこだわらない。」西井氏の言葉だ。おそらく、イノベーションを起こすためには既存の金融という枠から飛び出て、徹底的にユーザー視点になりきることの重要性を熟知しているからこその言葉だと感じた。ユーザーはFintechサービスを求めているのではなく、単純に便利だと思えるサービスが欲しいだけなのだ。そこにはどこの業界のサービスなのかはユーザーには関係ない。

モノや情報に溢れ、便利になった社会の中で、新しいサービスを開発することは容易ではない。既存のビジネス領域から離れ、徹底的なユーザー視点で発想を超えられるか。そこに対して失敗を恐れずに進むことができる組織風土があるかどうかが今後のビジネスの鍵になるであろう。株主、ヒト、組織、お金、競合、規制緩和等、こういった要素が複雑に絡みあうビジネスの中で、自己否定して突き進むことはそう簡単ではない。しかしながら、AIという破壊的なテクノロジーが迫っているなか、企業はいま大きな決断を迫られているのかもしれない。

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