Interview

全ての組織にイノベーションマインドを 〜WOWOWのビジネス変革への挑戦〜

さらにはデジタルテクノロジーの進化を受けて放送サービスの変革が急がれる中、WOWOWは様々なチャレンジを仕掛けている存在だ。

ユーザーの多様化や配信事業者の多様化など放送業界を取り巻くビジネスの競争は激化している。さらにはデジタルテクノロジーの進化を受けて放送サービスの変革が急がれる中、WOWOWは様々なチャレンジを仕掛けている存在だ。今年の7月に大きな組織改定があり、このデジタルテクノロジーの領域にさらに力を入れていくという。その中心となるICTイノベーション部和田裕司部長に話を伺った。(2018年8月取材)


―まずは事業概要について教えて下さい。

IMG_1797ICT局 ICTイノベーション部長 和田裕司氏

和田)今年の7月に、300人規模の会社でおよそ100人が異動するという大規模な組織改定がありました。そのなかで私達ICTイノベーション部が新しく立ち上がりましたが、現状では何をやっているのかあまり知られていない部署だと思います。簡単に言うと、私達は他の部署や従来のビジネスではできないことに挑戦していく部署になります。最新のデジタルテクノロジーやビジネスの情報を集めつつ、社内業務への適用、あるいはスタートアップと組んだオープン・イノベーションに取り組むなど幅広いことに取り組んで行く予定です。現在は、中期経営計画に寄与することを前提として、ICT戦略から改めて考え、取組内容をデザインしているところです。

未来につながるモノづくりや提案を

―現在、具体的に走っているプロジェクトはありますでしょうか。

和田)前の組織から引き継いだものをいくつかご紹介します。VRで360°の動画を配信する「WOWOW 360」がまず1つ目です。2K・4K映像を360°で配信しているアプリなのですが、お客様に楽しんでもらえるようなコンテンツとして、まずは実験的に始めています。ちょうど今だとLPGAのゴルフツアーの様子を見ることができます。

―これは面白いですね!試合前の練習風景なども見られるんですね。

和田)海外のゴルフ中継を4Kでかつ360°で配信するのは日本初です。Picture in Pictureという技術で、ゴルフの選手がショットを打つ瞬間を別の画像で見ながら、コースを360°楽しめるという今までにない体験をこの「WOWOW 360」で楽しむことができます。

さらに8/25に放送されるセリーヌ・ディオンの東京ドーム公演の模様を、テレビ向けに4K画質で配信するという実証実験も行います。ハイブリッドキャストと言われるテクノロジーを活用した取り組みで、対応機種であれば2Kで放送されている番組をご視聴頂いている際にワンタッチで4K映像がご覧頂けるようになります。

配信サービスというとモバイル端末に4K配信を行うという発想になりますが、この取組はテレビを見ている方々に対して4K配信を行うというものです。2018年12月から「新4K8K衛星放送」が始まり、当社でも2020年からの4K放送を予定していますが、それに先駆けて各部署の協力のもとこういった取組を通じての4Kコンテンツの配信を実験しているところです。

WOWOWの従来のビジネスモデルでは新規加入の獲得や番組ラインナップの充実に注力していますが、私達がある種の遊軍というかたちで活動することで、現業にとらわれずに、未来につながるモノづくりや提案をいかに行っていくかがポイントです。さらに先程のような調査研究をやっていた部署の業務を引き継ぎ、実用化も踏まえてビジネスとしての継続性をデザインしていくことも私達のミッションになります。

集められたのは異なるバックグランドを持つメンバー

―所属人員は何名ですか?

和田)7名です。以前にまったく新しい部署が出来た時は4名ほどでしたので、その倍近くになりました。一方で、このような取り組みに挑戦するのは当然ながら全員が初めてになります。ですので、いまは様々な角度で研究活動をしているところです。Anewsのサービス自体がヒントになっていたり、集めてくれる情報が非常に役に立っていたりもします。私達は、現業のビジネスから違う世界に置かれることで、様々なインプットとアウトプットを出すようなことに時間を割くことができています。

―実際それによって働き方や考え方に変化は起きたのでしょうか?

和田)そうですね。そもそもWOWOWはライフラインのようなインフラではありません。しかしながら、いまある生活や時間をさらに豊かにし、これまでにない豊かさを提供することができます。ですので、そのなかでICT技術を使ってなにか貢献できる芽がないかということを常に考えるようになりました。ご飯を食べている時や電車に乗っている時、「こんなサービスを当社の業界に代替したらどうだろう」、「こういう嫌なことが解消されるサービスがあったらどうたろう」と、常にイノベーションについて考える思考になりました。

―皆様のバックグランドはどういったものなのでしょうか?

和田)カスタマーリレーションやWebサービスなどの業務経験を持つ者や、放送技術や情報システムといった技術畑出身者、財務や経営管理の経験が豊富な者など、バランスよく配置されていると思います。中途入社したメンバーも多く、組織として幅広いバックグランドがあると感じています。

―ちなみに和田さんのバックグランドは?

和田)若い時期に営業部門、番組制作部門を経験したのち、情報システム部門を16年やっていました。情報システム部門では、それまでのバックボーンがモノづくりにおいて非常に役に立つことが多かったです。このような経験もあるので、様々なバックボーンを持っている人間が集まるというのは非常に重要でありますし、全員のバックボーンの経験を足し算するとかなり面白くなるわけです。当然ながら、苦手なところはお互い補完し、強みを教え合いながら活動しているのは楽しく、いいチームだと感じています。

―技術は内製しているのでしょうか?

和田)さきほどのハイブリッドキャストの技術は、グループ会社である株式会社アクトビラと共同で取り組みました。技術自体をどこで作るか、技術自体が新しいかということより、その利活用の仕方・組み合わせ方が重要という印象が強いです。自分たちの持っている技術を組み合わせるパターンもあれば、どこかの企業の技術と組み合わせてやっていくパターンの両方があるのかなと思います。

モノを提供して人が豊かになることにいかにICTで貢献できるか

―ぜひとも戦略についてお聞きしたいのですが、根幹にあるものはなんでしょうか?

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和田)抽象化して考えると、根幹には人とモノ、というイメージがあります。ヒトという観点では、私達が何かを提供して楽しんで頂く人がいて、その楽しさ・豊かさを高度化する仕組みづくりについて考えています。あとはモノの観点では、モノが届くためにどうするかを考えています。例えば、簡単に届く、いろんなところに届く、楽に届く、安定に届く、などです。あとはモノそのものについては、コンテンツという番組を届けていますが、それ以外に何か提供できないかを考えています。さらにはテクノロジーの発展を考えると、いままで取れなかった感情などのデータが取れるようになり、可視化されることで新しい何か付加価値を生み出せないかを考えています。

―IoTや定性データ、感情データなどの活用ですね。まさにアルケミスト的な存在ですね。

和田)要は人がモノを使ってくれて豊かさが発生するとするならば、それに出会える場所をよりよくすることや、つながる回数を増やすことなどに、ICTで貢献することが大事だと思います。コンテンツを提供してくれるクリエイターが当社のお客様に届けたいと思うような場作りにも貢献したいとも考えています。

―難しいと感じていることはありますか?

和田)技術と技術を組み合わせて何か新しいことを作ること自体はいろいろできると思うのですが、お客様に価値が届いて楽しみ続けていただくことは難しいと思います。リソースが限られているなかで、継続的にビジネスを回す仕組みを作らないとお客様に届けることはできません。そこまでしっかりとドライブしていくことをデザインしていきたいと考えています。美味しくない料理を作っても意味がないですし、美味しい料理をつくってもお店にお客が入らなければ意味がないですよね。そういう意味でも、さまざまなバックグランドを持つ人材が集められているのは強みでもあります。

イノベーションの風土を全社的に当たり前にしたい

―総合スキルが試される部署ですね。

和田)そうだと思います。そもそもイノベーションを成功させるための要素はあまりにも多すぎます。本来、私からするとイノベーションとは特別な仕事ではなく、どの部署にもあるべき活動だと思っています。私達がイノベーションという名前がつく部署として活動することがきっかけとなって、全社的に当たり前にイノベーションの風土が出来上がり、「●●イノベーション部」という名前の部署がなくなることがゴールだと思っています。

―成果が出るのが楽しみですね。目標時期みたいなものはあるのでしょうか?

和田)具体的な年数では決まっていませんが、いまのテクノロジーの進化を鑑みるとある程度スピーディーに実行していかなければならないと考えています。そのなかでWOWOW のいまのビジネスを守るのではなく、既存の組織ではできないことに挑戦していく予定です。失敗を恐れずに様々なことを試していきたいと思います。


編集後記

AIなどの新しいテクノロジーは既存の延長線上のテクノロジーではない。既存のすぐれた経営はおそらく有力な企業を失敗に導くであろう。これからの時代、経営トップは新しいテクノロジーに対してどのようにリソースを配置し、組織として対応していくかが求められている。デジタルシフトに向けた大胆な組織改定と人員配置、そして様々なバックグランドを持つ人材が集められたWOWOW の新組織。私は取材を通してWOWOWの本気度を伺うことができた。そして何よりイノベーションを全ての組織に浸透させるという強い思いを持ったリーダーにもお会いすることができた。今後のWOWOWの挑戦に注目したい。

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